リスティング広告(検索連動型広告)の運用をしていると、お客様と相談することが多いテーマの1つに
『指名キーワード(※1)でリスティング広告を掲載する必要はあるのか?』
が上げられます。
※1:自社のサービス名(固有名詞)での検索キーワード
お客様の意見
⇒『指名キーワードはSEOで1位に自社サイトが表示されるから、広告は出さなくてもいいのでは?(その分の広告費を、別の検索キーワードに使って)』
リスティング広告運用者の意見
⇒『SEOの上に競合の広告が表示される場合もあるので、広告表示した方が機会損失を防げます!』
なんてやりとりは、誰しも1度は経験したことがあるのではないでしょうか?
指名キーワードでリスティング広告を表示した方がよいかどうかは、案件の前提条件によっても変わるので「これが正しい」と決めることは難しいです。
今回は私自身も実際に、指名キーワードでの広告掲載をどうしたらいいか悩んだ案件で、「Search Console(サーチコンソール)」のデータを分析することで、お客様と共に納得のいく結論が出た事例をご紹介します。
目次
指名キーワードでもリスティング広告を掲載したほうが良い理由(メリット)
私自身は、前提条件さえ揃っていれば「指名キーワードでも広告を掲載したい」派です。
リスティング広告で指名キーワードでも広告掲載をするメリットは、運用者によって考え方はバラバラだと思いますが、私が考えるメリットは以下の通りです。
・SEOとリスティング広告の両方(あとGoogleマイビジネスも)を表示することで、検索結果画面の占有率を増やしたい。
・SEOよりもリスティング広告の方が上に表示されるので、指名キーワードで検索したユーザーが競合他社の広告をクリックしてしまうとこを防ぐ。
・指名キーワード検索から誘導したいページ(広告のリンク先)を任意に設定できる。
・指名キーワードの方がコンバージョンも発生しやすいため、アカウント内のコンバージョン数も増える⇒スマート自動入札で使われるシグナルの精度も上がる(気がする…)
・「指名キーワードで流入したユーザー」のリマーケティングリストや、類似ユーザーリストが作れる。(ここ最近はそこまで活用していないですけど…)
他にも上げれば色々と出てくるかもしれません。
参考:リスティング広告の「指名キーワード」について言及されているブログ
■指名キーワードの配信を検討すべき12の理由
■指名キーワードで広告配信した方が良い理由
私がリスティング広告で指名キーワードの配信を悩んだ案件
企業向けシステムのリード獲得案件です。
<案件の概要>
- ランニングコストが発生するシステムなので、導入後の売上単価は高い。
- その案件は業界シェア3位以上(業界の人なら誰もが知ってる)
- 市場自体はまだまだニッチな状態。(まだそのことをシステム化していない企業が多い)
- 類似サービスや新規参入が多い。(広告出稿する競合企業が多い)
キーワードプランナーで「一般キーワード(指名キーワード以外のキーワード)」の平均クリック単価を確認すると1,500~2,500円といった業界で、この案件の検索連動型広告の予算は月30万円ほどで、リード獲得の目標CPA:5万円前後で運用しています。
勘の良い方はお気づきかもしれませんが、この検索キャンペーンをそのまま「コンバージョン数の最大化」で運用すると、1クリックだけで10,000円以上も発生することもあり、1日の予算を1クリックで使い切ってしまうこともあります。
『どんだけ強気の入札なんだよ!お前は「絶対にコンバージョンする」って思ったんだな?なら許す』
と突っ込みたくなりますね。
あと、競合サービス名を含んだ検索語句のクリック単価が5,000円以上とか、発狂するほど高くなるので、ハモの骨切りぐらい小まめに競合名を除外設定しています。
ちなみに、この案件の検索連動型広告は「コンバージョン数の最大化」を使うと、あまり上手くいかないケースが多いので、ポートフォリオ入札戦略での「目標コンバージョン単価」を使って、オプションの”入札単価の上限”も調整しながら運用しています。
『(もう手動入札で運用しては)いかんのか?』
と自分に突っ込みたくなることも。
検索連動型広告で「指名キーワード」の掲載を悩んだ理由
運用を開始した2018年の中旬は、指名キーワードのクリック単価は100円ほどだったので、そこまで気にせず掲載していました。
※「指名キーワード」と「非指名キーワード」で目標PCAを別けてチェックするぐらいはやっていましが。
ただ、2019年の9月あたりから、「オークションレポート」を確認すると、自社の指名キーワードで広告表示する競合も徐々に増えだしてきました。
すると、指名キーワードの平均クリック単価もどんどん上がり、ついに1,000円を超えるようになりました。
検索連動型広告の予算30万円のうち10万円が、指名キーワードを含む検索語句からのクリックに使われてしまう状況に…。
これはお客様とも、指名キーワードの取り扱いについて話し合いました。
自分の中でも
『指名キーワードで広告を止めると機会損失が…』
と
『指名キーワード1クリックに1,000円オーバーはありえんでしょ』
の冷静と情熱の間で悩みました。
結論を先に言うと、キャプチャーを見たら分かりますが、お客様も納得した上で、指名キーワードでの掲載を停止することにしました。
この議論をする際に使ったものが、「Google Search Console」のデータです。
「Google Search Console」とは
「Google Search Console」はGoogleが提供している無料ツールで、ざっくりと説明すると、Googleの自然検索で自分のホームページがどんな状況で表示されているのか把握できるツールです。
企業のWeb担当者や、SEOのお仕事されている人には必須のツールです。
私も含め、「Google Search Console」のことを略して「サチコ」と呼ぶ人が多いです。
「Google Search Console」で確認したかったこと
「Google Search Console」を使って確認したかったことは4つです。
①SEOから流入する検索クエリのうち、指名キーワードを含んだ検索クエリの割合
②指名キーワードを含んだ検索クエリ全体の傾向(「Know」とか「Buy」とか)
③指名キーワードを含んだ検索クエリの「表示回数」「クリック数」それぞれ上位30の平均順位とクリック率
④指名キーワードを含んだ検索クエリの「表示回数」「クリック数」それぞれ上位30が、SEOで表示されていたページ
①SEOから流入する検索クエリのうち、指名キーワードを含んだ検索クエリの割合
別のブログでも書きましたが、私が分析をするときの順番は
『森から木へ、木から枝へ、枝から葉へ、葉から気孔へ、気孔から葉緑体へ』
と全体像を捉えてから、細部へと掘り下げていきます。
まずは「Google Search Console」から過去6ヵ月間のクエリデータをダウンロードして、「指名キーワードを含むクエリ」のクリック数の割合を調べましまた。
ダウンロードしたデータにフィルターをかけて、指名キーワードをピックアップしてフラグを付けて調べただけです。
結果としては、自然検索流入の約65%が「社名関連」、3割が「サービス名(指名キーワード)関連」、5%が「その他の検索クエリ」でした。
②指名キーワードを含んだ検索クエリ全体の傾向(「Know」とか「Buy」とか)
次に「指名キーワード」の検索クエリのみを抽出して、その傾向を調べました。
「〇〇〇〇(指名キーワード) 見積」⇒Buyクエリ
と、フラグを付けて行く作業です。
これは検索クエリごとに目視でチェックしていくため、時間がかかる作業でしたので、アクセス解析担当の田島さんに作業を依頼しました。
これも調べてみて分かりましたが、検索クエリの7割が「Knowクエリ」で、「Buyクエリ」や「Doクエリ」は1割以下でした。
『「〇〇〇〇(指名キーワード) 資料請求」で検索すると、競合の広告が出ていて、顧客を取られちゃう』
と、あたふたしていましたが、そもそもそのクエリで検索されていないよ、みたいな。
③指名キーワードを含んだ検索クエリの「表示回数」「クリック数」それぞれ上位30の平均順位とクリック率
検索クエリごとの掲載順位とクリック率を確認して、
この検索クエリは、掲載順位が高いのにクリック率が低い
↓
競合の広告にクリックを取られているのでは?
を確認しました。
ただ、アクセス解析担当の田島さんから
『全ての検索クエリのチェックは勘弁してください…』
と泣きが入ったため、影響の大きい「表示回数」と「クリック数」の上位30クエリのみ調べることにしました。
<参考>Google検索のクリック率と掲載順位の関係が気になるから、海外の3つの調査結果と国内のサイトを比較してみた
こちらの検索順位別のクリック率を参考に、各クエリの数値を調べました。
「アミジャット」のホームページの「Google Search Console」のキャプチャーですが、こんな感じで検索クエリごとのクリック率を確認できます。
検索クエリの種類によってバラツキはあったものの、「平均掲載順位が高いのにクリック率が低い」というものはありませんでした。
④指名キーワードを含んだ検索クエリの「表示回数」「クリック数」それぞれ上位30が、SEOで表示されていたページ
ここも大事なポイントです。
いくら上位に表示されてクリック率が高くても、誘導しているページが意図しないページ(例えば「会社概要」とか)では意味がありません。
検索クエリごとに、「実際にどのページが表示されていたか(誘導できたか)」を確認しました。
私のサイトの「Google Search Console」のキャプチャーですが、こんな感じで検索クエリごとのクリック率を確認できます。
これも、「アミジャット」のホームページの「Google Search Console」のキャプチャーですが、こんな感じで検索クエリごとに、どのページに誘導できたかを確認できます。
このキャプチャーを見ると、「アミジャット」という1つの検索クエリに対して、トップページに誘導したクリックは84件、プロフィールページに誘導したクリック数は3件と、同じ検索クエリでも別のページに誘導しています。
もし仮に、「アミジャット」という検索をした人に対して、サービスページへ誘導したいのであれば、今の状態ではいくらSEOの順位が高くてクリック率も高かったとしても、目的を達成できていないことになります。
目的を達成するためには、検索連動型広告を使って、検索語句「アミジャット」に対して「サービスページ」を表示する必要があります。
実際のお客様の案件の話に戻すと、指名キーワードの検索クエリ(特にBuyとDo)で誘導しているページは、ほぼ「サービス紹介ページ」でした。
「Google Search Console」のデータを見て決めたこと
『うちのホームページのSEO流入って、社名とサービス名がほとんどだよね』
『指名キーワードで検索したときに、自社や競合の広告が出ていても、SEOのクリック率は悪くないよね。もちろん、機会損失はあるかもしれないけどね』
『SEOから誘導しているページは、サービス紹介のページだから問題ないよね』
『広告費の1/3を使って指名キーワードの機会損失を防ぐよりも、SEOからの流入が少ない一般ワードのクリックを集めた方が良さそうだよね。』
という流れで、お客様も私も納得したうえで、検索連動型広告で指名キーワードでの広告掲載を止めることにしました。
ちなみに、話し言葉の最後を“よね”に統一すると、浜崎あゆみの歌詞っぽくなります。
まとめ:施策に正解はないよね。だからこそ、君と僕とで分かりあえる「仮説」を立てるんだよね
今現在も検索連動型広告では指名キーワードの掲載を止めています。
指名キーワードの部分一致はオンのままにして、除外キーワードに指名キーワードを設定したりしているので、Google広告の管理画面からは
『登録キーワードと除外キーワードが矛盾しています!』
と注意されることも。
今のところ、サイト全体のお問い合わせ数も、広告管理画面上もコンバージョン数も増えているのですが、それが「理検索連動型広告で指名キーワードの掲載を停止した」影響なのか、「外部要因(コロナの影響)」なのか、正直なところ判断できません。
検索クエリの傾向が、前年とまったく違うので…。
また、そもそも私が「Google Search Console」のデータで確認した手法自体も、正しいのか間違っているのか怪しいですが、
『他社はこうしているから』
『一般論はこうだから』
で決めてしまうよりは良いかな、と。
少なくとも、お客様からは喜ばれました。
“十人十色”という言葉があるように、「この方法が絶対に正しい」や「この場合はこのやり方をすべき」というものはありません。
“ランチェスター戦略”という言葉があるように、自社の戦力(ポジションや広告予算など)によっては、大手企業と同じ施策を行っても上手くいかないケースもあります。
だからこそ、
『結果が出るかはやってみないと分からないかもしれませんが、ここまでお客様の状況を考えて決めた施策です』
といった、お客様の状況に合わせた仮説をたてることが、最低限のマナーだと考えています。
ちなみに、このまとめの見出しのように、“お互い“の箇所を”君と僕“に変えて書くと、浜崎あゆみの歌詞っぽくなります。
浜崎あゆみ風の歌詞を作りたいときは、ぜひ参考にしてみてください。